【書評】酒が語るアメリカ裏面史|バーボンをやりながら読み返したい良書
「国造りの原動力は飲酒だった!?」
この文が目に飛び込み思わず手にしたこの本。
読んでみるとアメリカの歴史とそれに伴うお酒の歴史が分かりやすく整理されて学べる良書であることが判明。
バーボン好きはもとより、お酒好きや歴史好きの方にはぜひお勧めしたい一冊。
グレン・サリバン氏「酒が語るアメリカ裏面史」の書評です。
昔の人と現代人のお酒の量
新世界開拓時代に生きたヨーロッパ人は(中略)現代人にとって啞然とするほど多い酒量を毎日口に運んでいたのだった。
(酒が語るアメリカ裏面史 P19)
”井戸水を飲むと伝染病にかかることが毎日の心配事だった”ともあります。
インフラの整備がまだまだ不十分だった時代、単に水分補給のため、より安全なお酒(スモールビール)が飲まれていました。
お酒を大量に摂取する、それは当時としては生きる手段、知恵だったわけです。
酒で始まり酒で終わる毎日
18世紀半のアメリカは見事なほど酒に溺れた植民地だった。
(酒が語るアメリカ裏面史 P36)
現代では考えられないようなライフスタイルが展開されていたようで、、、。
朝、午前、午後、夕食、晩酌、寝酒と一日中飲んでいます。
休みの日ではありません。
これが日常だったようです。
健康維持のため、もしくは薬的ニュアンスが強かったため、悪気や後ろめたさなどは多分になかったのでしょう。
旧世界と新世界を繋いだラム
西洋人の酒造りに新風を吹き込んだのは(中略)サトウキビという植物だった。
(酒が語るアメリカ裏面史 P42)
元々はカリブ海の土着酒で粗悪な安酒だったラムというお酒。
でもこのお酒がアメリカ史において重要な役割を担います。
仕方なく誕生したラムだったが、、
ラム酒は原始的なリサイクル意識から登場した酒。
(酒が語るアメリカ裏面史 P45)
砂糖が「嗜好品」から「必需品」へ変わると需要に追い付こうと大量に砂糖が生産されるようになります。
これにより人手不足を補うた奴隷貿易がさかんになってしまうわけですが、、、。
この時に問題になったのが砂糖生産時に生じる搾りかす、これをどうするか。
そこで考えられたのが、搾りかすを原料にお酒を造ろうというもの。
当初はお世辞にもおいしいといえるものではなかったようですが、消費や技術の向上とともに味も次第に洗練され。
新世界で造り、新世界で売られ、新世界で飲まれる。
この構図が見事に確立されたもの、それがラムというお酒だったようです。
独立戦争のきっかけ
ラム酒業者がイギリス本国の国法に逆らって(中略)両者の関係は壊滅寸前に近づいていた。
(酒が語るアメリカ裏面史 P67)
「代表なき課税は暴政である」
イギリス本国が勝手に糖蜜に高い関税をかけます。
北米のラム業者はこれを無視し違法ながらもより安いフランスから糖蜜を買い続けます。
コストを抑えようとするのは商売をやっていれば当然のことです。
両者の関係は悪くなりやがて独立戦争へとつながっていきます。
最初のきっかけはラム酒だったわけです。
大統領の趣味は酒造り
ジョージワシントン、彼の最大の趣味はなんといっても蒸留業だった。
(酒が語るアメリカ裏面史 P76)
なんでも地酒造りの副業でかなりの収入があったようです。
ワシントンに限らずこの頃のいわゆるアメリカの富裕層はお酒造りを副業にしていた人たちが多くいたようです。
また、戦争時にはお酒は士気高揚のためには重要なアイテムだったわけで、指導者達はたくさんお酒を保有していました。
まさに「渡りに船」。
トウモロコシの育ちが良すぎるもんだから
家族や家畜が消費できないほどのトウモロコシが生活環境の邪魔となり、、
(酒が語るアメリカ裏面史 P80)
アメリカのお酒といえばバーボンですが、その原料はトウモロコシです。
なぜそうなったかといえば簡単な話でトウモロコシがよく育ったからです。
ラム誕生とよく似ていますが、過剰にできてしまったトウモロコシをどうするかとなった時、出た答えが、
「お酒にしてしまって売ろう」
お酒にしてしまえば腐ることはありませんし、持ち運びも楽になります。
いいことづくめだったわけです。
こういった流れでアメリカ初の土着酒が誕生していきます。
酒で乱れた社会
独立宣言から50年後、アメリカは(中略)酒に飲まれる国民に変わりつつあった。
(酒が語るアメリカ裏面史 P88)
コーンウイスキーとともにビールもその生産技術向上とともに多く飲まれるようになります。
詳しくは本書に譲りますが、企業の戦略で、
「フリーランチ」
なるものが考え出され、これにより仕事中でも昼間っから酒を飲む人が増えます。
やがて禁酒法成立へとつながっていくのです。
禁酒法成立の背景
<目の届かないところで黙々と苦労してきたのはアメリカの女性だった。
(酒が語るアメリカ裏面史 P105)
禁酒法なんて、
「今じゃとても考えられない」
「当然うまくはいかない」
と思えるのは、その後どうなったのか歴史を俯瞰してみることができるからにすぎません。
当時、居酒屋に出入りしていたのは男性、つまりは夫でその収入は酒に消えていきます。
酔っ払った勢いで妻や子に乱暴する人もいたでしょう。
女性達は立ち上がります。
禁酒法成立には当然、それ相当の言い分や理屈があるわけです。
ザル法
逃げ道や抜け道が山ほどあった(中略)思いのほかルーズだった。
(酒が語るアメリカ裏面史 P126)
飲酒が社会問題となり、その規制に乗り出すのは当然だと思いますが、禁酒法成立自体は世界各国啞然としたようです。
何とかしないといけないのは分かるけど、ちょっと無理じゃないという感じでしょうか。
その証拠に抜け道はいくつもあり、、、いわゆるザル法だったわけです。
逆に向上したカクテルの技術とバーテンダーの腕
スピークイージーのカウンターに並べられた酒はおおむね浄化済みの工業用アルコールだった。
(酒が語るアメリカ裏面史 P133)
スピークイージーとはもぐり酒場です。
その頃かなり流行ったようです。
工業用アルコールなどはありました。
その粗悪なアルコールをいかにおいしく、そして
「飲んでるのはお酒なんかじゃありませんよ」
とするか、そういったことでカクテルの発達やバーテンダーの技術向上へつながっていきました。
禁酒法で分かったこと
禁酒法を撤廃しないとアメリカがダメになるかもしれない。
(酒が語るアメリカ裏面史 P141)
酒飲みはだたでさえお酒を飲みたいものです。
それを禁止されればその飲みたい欲求はさらに拍車がかかります。
禁止したことで生まれる新たな弊害、犯罪の多発や賄賂の横行、酒税による税収のストップなど。
どうあれお酒は人類にとって必要なものということが言えます。
切っても切れない、だからこそ短い期間だっだとはいえ人類史上初の禁酒法というものから学ぶべきものが数多くあるように思います。
ラムの復活とトロピカルカクテルの誕生
どこよりも人気を得たのが南太平洋をイメージした「ティキバー」である。
(酒が語るアメリカ裏面史 P158)
大量生産大量消費の時代になると人々にものが行き届きます。
そうなると自ずとオシャレなもの、派手なものが流行ります。
トロピカルカクテルの誕生などは人々にゆとり、余裕が生まれてきたということです。
まとめ
アメリカ史をお酒を通して紐解いていった本書。
お酒と人類社会は切っても切れない間柄です。
なのでこの手の本はいくつもあると思いますが、本書は、初心者でも大変分かりやすく整理されています。
アメリカ史とお酒の歴史を同時に学べる良書と言えます。
興味のある方はぜひチェックしてみてください。