【書評】琥珀の夢|己の信念を貫け!
こんにちはこんばんわ、かーりーです。
今回は、伊集院静氏の
「琥珀の夢|小説 鳥井信治郎」
の書評です。
鳥井信治郎さんは言わずと知れたサントリーの創業者です。
いや~、最初から最後まで熱かった!
やっぱ、この時代の日本人はすげぇな。
夢や目標に向かい突き進もうとしてる人には特におすすめです。
経営の神様、松下幸之助とのエピソード
序章は、パナソニックを一代で築き上げた、経営の神様、松下幸之助とのエピソードです。
のっけから心をつかまれてしまい、、。
鳥井信治郎とこういった接点があったとはこれを読むまで知りませんでした。
舶来専門の自転車店に奉公する松下少年が寿屋洋酒店に自転車を届けに行った時、二人は出会います。
主人は少年の顔をじっと見ていた。
その眼光の鋭さに少年は動けなくなった。
「ところで坊はんは何を見てたんや」
「す、すんまへん。こ、この棚の葡萄酒があんまり綺麗なんで、つい見惚れてもうて、どうもすんまへんでした」
少年の言葉に信治郎は相好(そうごう)を崩して笑うと、
「何も謝ることあらへん。そうか、坊の目にもこの葡萄酒が綺麗に見えたか。そら嬉しいこっちゃな」
と言った。
(琥珀の夢 上:P16)
葡萄酒が綺麗というこの少年に対し信治郎は、
「見どころがある」
と感じます。
以来、二人の交流は生涯続き、松下はことあるごとに鳥井に相談、鳥井も十五歳下の松下への助言を惜しみませんでした。
松下は生涯、この日のことは忘れなかった、といいます。
鳥井信治郎の銅像が完成し、除幕式で松下幸之助がスピーチするシーンがあるのですが、ちょっと泣きそうでした。
序盤の序盤なんですが、、。
あるのは信念のみ
信治郎は本格的にウイスキー造りに乗り出そうとします。
しかし、いくつもの壁が待ち受けていました。
・スコットランド以外の土地では造られたことがない
・莫大な費用がかかる
(現在のお金に換算すると数百億円)
・製品化するまで、5~10年、いやもっとかかるかもしれない
・それが売れるかどうかは未知数
回収できるかどうかも分からないものに、数百億円、投資しようというのです。
周りの人も全員ではないにしろ軒並み反対な空気。。
それでも信治郎はおのれの信念を貫こうとします。
その夜の信治郎はそっと寝間を抜け出し、築港工場のある桟橋まであるいた。
満天の星がまたたいていた。
―何か踏み出せるきっかけがあるはずや。わてにそれが見えてへんだけや。同じ人間がこしらえたもんやないか。それが同じ人間のわてにでけんはずはない。
信治郎は両手の手を開き、自分の手を見つめた。
―同じ人間の手や。わてのこの手でもでけるはずや・・・・。
しらじらとその日も夜が明けた。
(琥珀の夢 下:P219)
信治郎自身、本物のウイスキーを初めて口にした時、しかめっ面をし、
「これが本当に美味しいのか?」
と思ったようですが、このウイスキーというお酒を美味しそうに飲む西洋人を見て、
「慣れてきたら良さや美味しさが分かるはず」
と感じ、、
「近い将来、日本人の間でもウイスキーが飲まれる」
という画が見えていました。
いくつもの葛藤や苦悩を乗り越えて、ウイスキー造りに邁進していくわけですが、読んでいて思ったことは、
「あるのは、こうしたいこうなりたいという、おのれの信念だけなのでは?」
ということ。
よく行動力の重要性が説かれますが、その行動力の源は、、
「信念」
ではないかと思います、
というか、
そう思わされました。
ジャパニーズウイスキー
当初、信治郎はスコットランドからウイスキー醸造技師を招こうとしますが、年俸がべらぼうに高い。
どうしたもんかと思っていたところに、日本人でウイスキー造りを本格的に学んだ人物がいることを知ります。
竹鶴政孝です。
しかも、今帰国していて浪人中。
信治郎は早速、竹鶴を口説きます。
少しずつ竹鶴の表情がおだやかになって行くのを見逃さなかった。
「スコットランド以外ではでけんというウイスキーを日本人の手でこしらえたら、そら皆びっくりしますで・・・」
「鳥井さん、本格的なウイスキー造りがどれだけ大変かをあなたはよくご存じないでしょうが」
「知りまへんが、わても赤玉を十五年かけてこしらえた男だす。本物がどれだけ大変かは想像はつきますわ。今日はこれで」
信治郎はそれから三度、帝塚山の竹鶴宅へ通った。”三顧の礼”ではないが、三度目の訪問で竹鶴はウイスキー造りを引き受けてくれた。
(琥珀の夢 下:P223)
個人的にはこのシーンは大好きです。
「ジャパニーズウイスキー誕生の瞬間」
といっても言い過ぎではないと思います。
ジャパニーズウイスキーは今や五大ウイスキーの1つに数えられ、その中でも世界的評価が高いウイスキーです。
ジャパニーズウイスキーの特徴といえば、いろいろあると思いますが、造られた経緯も他のウイスキーとはちょっと違います。
他のウイスキーは歴史の大きな流れに乗って自然発生的に誕生していますが、ジャパニーズウイスキーだけは自ら、わざわざその造り方を学びに行っています。
「竹鶴さんもすげぇな」
って感じなんですが。。
西洋のどえらいもを見て、
「すげぇな」
と思うだけではなく、
「これ自分たちでつくれねぇかな?」
という思考になるのが日本人です。
(黒船来航の時もそうですが)
西洋文化が押し寄せてくるこの時代、特に、こういった思考を持った人が躍動したのでは?と思ったりします。
とにかく、、
「ジャパニーズウイスキー誕生の瞬間」
しびれます、はい。
まとめ:己の信念を貫け!
伝記や歴史関係の小説なんかを読む時、最終的にはどうなったかを知った上で読むので、
「へぇ~、そうなんだ~」
で終わってしまいがちですが、物語の中の人々はこの先どうなるかなんて分からないわけです。
当たり前ですが。。
この先どうなるかなんて分からない、ということを踏まえた上で読むと、
これだけすごいことをやってのけた人物でもやっぱり一人の人間で、迷いや葛藤があって、、
というのがリアルに感じられます。
この本を通じて僕が学んでことそれは、、
夢や目標を達成するために必要なものはただ1つ、
信念を貫こうとする強き意志
なんだな、と鳥井信治郎さんの生き方を見て感じました。
お酒好きにはもちろん、夢や目標に向かって頑張っている人にはぜひ読んでほしい一冊です。