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あの日、あの時、あのカシス|体験談


カクテルにまつわるエピソードを紹介しています。

今回は20代男性の方です。


人生で一番短い瞬間

誕生月の6月を迎え、ようやく半袖で過ごせる頃になると、今まで感じたことのなかった甘酸っぱい気持ちと、その時に初めて飲んだカシスミルクの柔らかい甘さが重なり、ついリキュールの売り場へ足を運んでしまいます。


お酒が飲める年齢になった20歳、大学生の頃、自分には縁がないと思っていた初めての恋愛をしました。

集団から孤立しがちだった僕は高校までは勉強とバスケしかしていない真面目な変わり者で、そんな人間関係を断ち切りたいと、地元からかなり遠方の大学へ進学しました。

大学でもバスケ部に入り、女子バスケ部の同期と話す機会はあったものの、特に何かあるわけでもなく、世間話に終始しては一人で黙々と練習する毎日でした。

そんな真面目くんだった僕は当然、恋人いない歴=年齢であり、今後もすることはないだろうと思っていました。

6月のある日、練習を終えアパートに帰って課題の勉強をしていた僕に、男子バスケ部の同期から連絡がありました。

「(女子バスケ部の)○○ちゃんの家で宅飲みしてるから、お前も来いよ。」

僕が行っても盛り上げ役にはなれないよと答えたところ、構わないから来てくれとのことで、彼の意図を全く汲み取れないまま、とりあえず向かいました。

アパートには同期の女子バスケ部5人と、僕に連絡をくれた男子バスケ部1人で、テーブルにはビールの缶が数本と焼酎の瓶、そしてリキュールの瓶が数本ありました。

お酒について何も知らなかった僕はリキュールを何かで割って飲むことを初めて知り、その中にカシスリキュールがありました。

アルコールの苦味が得意でない僕でもオレンジ割りやウーロン茶割りは飲めましたが、この時は好物のミルクがあったので、勧められるままカシスミルクを作ってみました。

こんなに甘くて美味しい飲み物が世の中にあるんだと、お酒の苦手意識が一気に吹き飛んだことを今でも覚えています。

しばらくして、カシスが足りないから近くのスーパーまで買いに行ってきてくれないかと頼まれ、僕は1人でアパートを出て、夜道を歩き出しました。

すると、後ろから足音が聞こえ、振り向くと、さっきまで宅飲みの席にいたSさんが、何やら恥ずかしげな表情で付いてきていました。

「あの・・少しお話をしたいなと思って。よかったら一緒に買い物行きませんか?」

Sさんは大学のある市内出身で、僕と同じように同期の中では目立つ存在ではなく、控えめな印象でした。

そんな彼女の意外とも言える行動に驚いたものの、僕はこの期に及んでもまだ状況が飲み込めていませんでした。

ただ、そのまま2人で買い物を済ませ、アパートまで歩く時間はこれまでの人生で1番短く感じ、視線が合うたびに恥じらいを見せるSさんに対して、かつて抱いたことのない熱い気持ちが湧き上がっていました。

Sさんはバスケ部に入った当初から僕のことが気になっていたものの、控えめな性格からなかなか声をかけられず過ごしていたそうです。

女子バスケ部の同期はそのことをSさんに相談され、それならSさんと僕を引き合わせる後押しをしようと、今回の宅飲みを開催した経緯を僕は後から知りました。

チーム内で特別上手いわけでもなく、面白い話をして人気者だったわけでもない僕にどうして興味を持ってくれたのかは今でもわかりませんが、このことがきっかけで定期的に2人で会うようになり、交際に発展しました。

3年間の交際を経て、残念ながら卒業間近に別れることとなってしまいましたが、心から大切と思える人に巡り合った時の気持ちは何物にも代えがたい宝物です。

あの時、あの席にカシスがなかったら、僕がカクテルではなくビールや焼酎をがんがん飲むようなお酒好きだったら、きっとあんな素敵な経験はしなかったかも知れません。

大学のある地域は6月は夏本番、もしかすると梅雨入りしているでしょう。

僕の地元は桜前線が終わり、初夏の風が吹く頃です。


【カシスミルク】
●カシスリキュール・・・30ml
●牛乳・・・80~90ml
〇ステア








管理人 かーりー

鹿児島在住、元バーテンダー。
趣味はお酒、読書、音楽鑑賞。この3つがあればとりあえず人生OKと思っている。40代、独身。

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