仕事の疲れを癒す一杯のカクテル|体験談
カクテルにまつわるエピソードを紹介しています。
今回は30代女性、会社員の方です。
仕事に追われる日々で見つけた小さなバー
私は大学卒業後、リラクセーションサロンで働いていました。
一年目は現場で店舗スタッフとしてセラピストの忙しくも楽しい日々を過ごしていましたが、突然の抜擢で二年目にエリアマネジャーとしての過酷な日々が始まりました。
30代の今になっては、
「もっとこういうやり方があったのではないか」
「このように進めれば効率がよかったのではないか」
と思うことも多々ありますが、当時24歳の私には、年齢も職歴も上の方ばかりを80~100名管理をするという仕事は荷が重すぎました。
セラピストの方には毎日指摘をされ、あだ名で呼ばれ、お客様のクレーム対応、店舗がテナントで入れさせて頂いている企業様の経営会議への出席、売り上げ管理、上司からの厳しい指導・・・
毎日、お仕事をしているというよりは、お仕事に追われる状況でした。
当時、エリアマネジャーが欠けると都内では人手が不足していたため、埼玉や神奈川から抜擢されることが多く、父の仕事の関係で新宿に住んでいた私は、
「(交通の利便性がいいから)どこでも担当できるでしょう?」
と、どんどん東京の西エリアを担当するようになっていきました。
いかに新宿とはいえ、片道2時間半もかかるような店舗もあり、さらに新店舗に人が集まらず家に深夜帰って、早朝出るので家族が一緒に暮らしながらも私の顔を見ないという悲惨な状況でした。
私は段々と帰ることが億劫になり、睡眠時間を確保するためにも、職場近くに泊るようになりました。
セラピスト時代よりは管理職のほうが待遇がよくなりましたが、そのような状況下では使い道がなく、お金は貯まりました。
お酒が好きだった私は当時夢がありました。
「行きつけのバー」
を持ちたいという夢です。
担当エリアが西東京になった時、とある店舗の最寄駅で小さなバーを見つけました。
たいていのバーは外から見えないようになっており、男性が経営されているお店も多く、ドレスコード、正装しなければいけないお店も多いイメージだったのでずっと入る勇気がありませんでした。
ところが、泊るようになってから、仕事が終わったら自分の自由な時間が沢山ある事に気づき、ダメだったらもう行かなければいいと、勇気をもって入りました。
すると、シェイカーをふっていらっしゃったのが女性でした。
また、カウンター5席、椅子席が8席ほどの小さなお店だったこともあり、とてもアットホームな雰囲気で安心できました。
オーナーでもあるバーテンダーさんにカウンター席を勧められると、常連さんばかりなのに、とても和気あいあいとした雰囲気で、私もお隣の席の方からチーズ盛り合わせを頂いてしまいました。
すっかり和んだ私は、
「カクテルのいろはもわからないので、私に合いそうなものを作って頂けますか」
と素人丸出しのオーダーをしてしまいました。
ところがオーナーは笑うこともなく、強さや好みの味などを聞いてくれた上で、
「●●さんスペシャルです」
と作ってくださいました。
レモンの香りがする爽やかで甘く、飲みやすいカクテルでした。
凄く美味しくて、仕事で緊張していたのか酔いが回って「美味しい」と繰り返しながら泣いていたそうです。
(後日、来店時にオーナーから聞きました)
バーというのは普通、お酒の味や香りを楽しむため、音や煙のでる調理はしないそうなのですが、オーナーは細身で美人の女性でありながら、そのようなバーに通い詰めている年配の方にジュージュー音を出しながら調理していることにクレームを言われても、
「これがうちのやり方です」
と追い払っていたそうです。
さらに、調理師免許をお持ちの女性スタッフがオーナーのお酒にぴったりのおつまみを作ってくださり、そのバーのおかげで心が折れそうになっていた私は、仕事を続けることができました。
勿論、そのあとも沢山色々なお酒は飲みましたが、私の人生であの一杯のカクテルを超えるものには出会っていません。